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第11話 入江秘書が大変です。

 紀美子はその場に釘付けになった

 晋太郎が朝急いで出かけたのは、彼女に腹を立てたからではなく、

 写真に写っていたあの女性が会社に現れたからだ。

 そうね、彼にとって私はただの発散の道具に過ぎないのだから、彼が労力を浪費する価値なんてない。

 紀美子は苦笑いをしながら、荷物を抱えて会社へ向かった。

 夕方、会社の仕事を片付けた後、紀美子は買ってきた栄養品を持って病院に見舞いに行く。

 途中で見知らぬ番号から電話がかかってきた。

 電話に出ると、父親の悲痛な叫び声が耳に飛び込んできた。

 「紀美子!助けてくれ、彼らが俺の指を切り落とそうとしているんだ、早く助けてに来てくれ!!」

 紀美子の顔色が一変し、言葉を発する前に見知らぬ声が続いた。「紀美子ちゃんか、お前の父親が今日、私たちのカジノで4000万円負けたよ。

 彼はお金がないみたいだから、仕方なくそちらへ連絡したんだ。」

 「お金なんてありません!」紀美子は歯を食いしばり、怒りを込めて答えた。

 「ない?」男は笑った。「やれ!」

 その指示が下されると、瞬く間に父の惨叫が再び響き渡った。「俺の指が!俺の指がああ!!」 紀美子の体が急に硬くなり、青ざめた。

 まさか相手が本当にやるとは思わなかった!

 「じゃ、4000万、払うのか払わないのか?」男が再び問うた。

 紀美子は慌てて言った。「すぐにそんな大金は払えないわ!少し猶予を……」

 「切れ。」

 話し終える前に、相手が再び命令を下した。

 悲痛で恐怖に満ちた叫び声が紀美子の心臓を強く打った。

 彼女の血液が一瞬で逆流したかのように感じ、慌てて叫んだ。「やめて!払います!!居場所を送って、今すぐ行きます!!」

 男は豪快に笑った。「よし、今すぐ送るよ、来なければ、あんたの父は手も足もない廃人になるんだ。」

 電話を切った後、紀美子は震える手で携帯を握りしめた。

 どんなに父がクズでも、見殺しにはできない。

 相手から送られてきた場所を見た後、紀美子はアカウントの残高が数万円しかないことを確認した。

 悩んだ末、彼女は晋太郎に電話をかけた。

 一方、ホルフェイスカジノでは――

 豪華で贅沢なVIPルームで、数人の若い男たちがなまめかしい女ディーラーに囲まれていた。

 中央の席にいる晋太郎は、まるで帝王のような優雅な姿勢で座っていた。

 華麗な照明が彼の顔に落ち、まるで金色の光をまとっているかのように、彼全体から魅力が放たれていた。

 隣にいる静恵は、晋太郎のスーツジャケットを大人しく抱えながら、彼の横顔をじっと見つめていた。

 彼女の手は激しく鼓動する胸に置かれており、その鼓動が一回跳ねるたびに、彼女はますます彼に惹かれていった。

 静恵はよく分かっている、この帝都を揺るがすことができる男のそばにいれば、彼女は永遠に守られ、誰も彼女を侮ることはできない。

 そして、未来に果てしない栄華と富みが待っている、彼女が揺さぶれないわけがない。

 どんな手段を使ってでも、彼女は晋太郎の唯一の女性になるつもりだ。

 静恵は煙草を手に取って晋太郎に渡そうとしたが、彼のスーツに入っていた携帯が震えるのを感じた。

 彼女は晋太郎の携帯を取り出し、渡そうとした。

 しかし、着信が紀美子からであることを確認すると、手の動きが止まった。

 目に冷たい光が走り、一瞬のためらいの後、静恵は電話を切った。

 そして何事もなかったかのように携帯をスーツに戻した。

 その時、電話が切られたことを見て、紀美子は驚いた。

 彼は忙しいのだろうか?

 歯を食いしばりながら、晋太郎が電話をかけ直してくることを期待して、紀美子は運転手にルートを変更させてカジノへ向かった。

 1時間後。

 紀美子は豪華なカジノの入り口で車を降り、

 ホールを抜け、02号のVIPルームの前まで来た。

 冷静さを保とうとしながらドアを押し開けた。

 ドアが開いた瞬間、血と煙の混ざった臭いが鼻を突き、

 部屋の中には、いかにも凶悪そうな男たちが座っていた。

 そして彼女の父親は、顔色が青ざめ、頭を地面に押さえつけられていた。

 彼の切れた指は、乱雑に巻かれたガーゼで強引に止血されていた。

 入口の音に気付いて、入江茂は苦しそうに頭を上げた。

 娘を見ると、彼の目には強烈な生存欲が溢れた。「紀美子!助けて、助けてくれ!」

 紀美子の怒りは、父親を見た瞬間にすべて消え去った。

 彼女は急いで茂のもとへ向かおうとしたが、道を遮られた。

 「紀美子ちゃん、そんなに急いでどうするんだ?まずは金を払え!」

 横で葉巻たばこを吸い、顔に恐ろしい傷跡がある男が嗤いながら言った。

 彼の視線は紀美子の全身を上下に這い回り、その眼差しの貪欲さに彼女の心は打ち震えた。

 紀美子は恐怖と怒りを抑え、顔に傷跡のある男を見つめた。「まず父親を放して、それからお金を払います!」

 男はあっさりと了承し、手を一振りすると、茂を押さえていた二人がすぐに手を離した。

 同時に、茂はよろけながら地面から立ち上がり、彼女に向かって急いで走り出した。

 彼は感謝の表情を浮かべて言った。「紀美子、ありがとう、俺は先に行くよ、君はここに残ってお金を払ってくれ!」

 そう言うと、彼は振り返ることもなく紀美子を置いて走り去った。

 「紀美子ちゃん、いい父親がいるんだね!」男たちは一斉に笑い出した。

 紀美子は父に見捨てられたことへの痛みに堪えながら、傷跡の男を見つめた。「今はそんな大金を持っていないのです。少し猶予をいただけませんか?」

 男の笑顔は瞬く間に消え去り、次の瞬間、彼は手に持っていたグラスを机に叩きつけた。

 「金もないくせに、何を要求なんか言ってやがるんだ!」

 紀美子は震えながら答えた。「一日だけ、時間をください!」

 男は怒鳴った。「ふざけるな!」

 そう言って、彼は紀美子をじろじろと見た。

 「金がないなら、お前の体で払ってもらうぞ!」

 紀美子は顔面蒼白になり、一歩後ずさりした。「そんなことしたら警察に通報します!」

 「警察だと?」傷跡の男は大笑いし、携帯をテーブルに投げ出した。「やってみろよ!俺が警察を怖がってると思うか?ふざけるな!」

 紀美子の心臓は激しく鼓動していた。

 彼女は通報しても無意味だと分かっていたが、絶対に彼らの手に落ちるわけにはいかない。

 そうでなければ、今夜彼女は必ず無事では済まないだろう。

 紀美子はポケットに手を入れ、急いで携帯の電源ボタンを三回押し、慎重に後退した。

 誰も注意を払っていない隙に、彼女はそのまま外に向かって走り出した。

 「捕まえろ!」

 背後から怒鳴り声が聞こえた時、紀美子の手はドアノブにかかっていた。

 ドアを少し開けた瞬間、彼女の髪は誰かに強く引っ張られた。

 「痛っ!」

 紀美子は苦しい叫びを上げ、地面に叩きつけられた。

 鈍い痛みが全身に広がり、強い眩暈で視界が暗くなった。

 彼女は唇を強く噛み締め、体を起こしながら、恐怖に満ちた目で歩いてくる傷跡の男を見た。

 立ち上がる間もなく、男は彼女に激しい平手打ちを食らわせた。

 激しい耳鳴りと頬の痛みで、紀美子は意識を失いそうになったが、

 再び髪を引っ張られ、彼女は無理矢理顔を上げさせられた。

 「逃げようだなんて考えるな、俺の縄張りから逃げられる奴なんかいないんだ!今夜はお前を地獄に叩き落としてやる!」

 そう言って、男は彼女の服を引き裂いた。

 胸の冷たさで紀美子は一瞬にして正気に戻り、目を見開いて絶望的に叫んだ。「いや……やめて!!!」

 その瞬間、廊下で。

 杉本肇は携帯を握りしめ、晋太郎がいる個室に飛び込んだ。

 その無礼な行動に、個室の中のVIP客たちは眉をひそめた。

 晋太郎の顔色が少し暗くなった。

 だが彼は、杉本が急な事情でなければこんな行動を取らないことを知っていた。

 彼はネクタイを引き締め、冷たい声で言った。「話せ!」

 杉本は厳しい表情で言った。「森川様、紀美子さんが大変です!」

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